連載 No.20 2015年12月27日掲載

 

言葉にできない表現求めて


すっかり習慣になってしまったが、冬のこの時期になると北海道を旅している。

北海道のどこに行くのかとたずねられるが、いつもながら目的地はなく、まずは海岸線を一回り。

雪の具合や天候と相談しながら、ゆっくりと撮影する場所決めている。

札幌では11月に激しい積雪があったが、今のところ吹雪には遭遇していない。

このまま穏やかな正月というのも良いが、雪が少ないのもつまらないと思い始めるから勝手なものだ。



今回も前号に引き続き野付半島のナラワラだ。今年もこのあたりで年を越そうと思っているが、

ここを撮影するようになって最初に気づいたことは(職業柄特に強く感じるのだろうか)

夕日がゆっくりと沈むことだ。

地平線に連なる雑木林に太陽がかかり始めると、本州なら10分もすると、すっかり沈んでしまうところだが、

オレンジ色の光はいつまでたっても残ったままだ。

地平を横に移動するから30分くらいはかかるのだろうか、

その間はずっと真っ赤な夕焼けを堪能することができる。



毎日のようにそんな美しい太陽を見ていると、都会の暮らしではあまり覚えのない、

地球や宇宙との一体感を意識するようになる。

間近に見られるたくさんの野生動物も、そういう気持ちをいっそう強くしてくれるのだろうか。



概して雪の少ない野付半島だが、気圧の不安定なときは激しい吹雪に見舞われる。

「曇り、時々雪」くらいの天気予報に安心して出かけると、

一歩先も見えないような吹雪に、長時間足止めされることがある。

さらに、原野に積もった粉雪が突風で巻き上がる地吹雪には注意が必要だ。

あっという間に視界を奪い、車の運転はもちろん、歩くこともできない状態になる。

そんな厳しい自然環境だからこそ、美しい風景が守られてきたのだろう。



そしてこの写真は、前号と同じ場所の、同じ木が被写体だ。

撮影は2012年の暮れだから、前回の撮影からちょうど1年後に訪れたことになる。

その日は珍しく雪が降り、撮影に出るのをためらったが、何かに引き寄せられるような感覚を覚えて出かけると、

その木は途中から折れて、地面に横たわっている。

無意識のうちにカメラを構えると、不思議に風が止み、雪の中の4秒の露光は静かな一瞬のような感覚だった。



今年また訪れれば、きっと新しい世界がそこにはあると思う。

何かを生み出すということよりも、新しい時をその場所で過ごしたい。

自分には言葉で表現することはできないが、限られた言の葉で宇宙を詠む、あたかも俳句のような感覚。

それを求めて今日も旅を続けている。